今春に懸念していたウッドショックで明らかになった日本の林業の現状と課題。このウェブマガジンの記事のみならず様々なメディア媒体で取り上げられ、実害として末端の消費者へも影響が出たことで、これまで関係者のみが直面していた日本の森林・林業問題が一般消費者の認識するところとなりました。
この状況を受けて行政はどう動いたのか?材料調達のために、これまでの輸入割合を維持する対策を打ったのか、それとも錆びついて動かなくなっている国内の木材流通へ対策を行ったのか?
今回は気になるウッドショックの現在の状況について調べてみました。
ウッドショック問題、政府の対応は?
昨年からのさまざまな懸念が現実になり、まさに消費者へとショックの波が押し寄せてきた2022年の春でした。
その波は今現在も続いており、木材のみならず木材を使用した2次製品などの様々な面に波及を続けています。
昨年12月にいわゆるウッドショックに対する緊急対策費として国は林野関係へ追加補正予算を決定しました。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/yosankesan/pdf/R4_k1.pdf
経常の施策に対する上乗せという形で1,242億円、前年度予算の4割相当の額が追加されています。これは資金不足で進まない施策を加速させるための資金投入です。
緊急対策費が国内の林業に対して行われたことで、国はこれまで民間の輸入頼りであった木材の供給を国内需給の安定策へ乗り出した、いや、放置していた問題にようやく本腰を入れたようだと受け止められます。
ただしこれはあくまで一時的な緊急対策費であり、「国内林業の流通の妨げになっていて今すぐ改善できる問題」に対する予算です。具体的には、乾燥施設整備による木材製品の供給力強化や原木の安定的な供給に向けた間伐・路 網整備の更なる推進(引用1*)に当てられます。
林業という長いスパンの産業を根本的に改善するためには、20年、30年後を見据えた業界の改編や人材育成、時代の需要に合わせた製品開発といった、戦略的な長期施策も急務です。今後も継続的に国主導の施策と投資の必要があり、我々川下業界も注視していかなければいけません。
そして先月、令和3年度の林野庁白書が公開されて具体的な今後の国内林業の目標が見えて来ました。
森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策(概要)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/yosankesan/attach/pdf/R4gaisan-6.pdf
ここで注目されたのは、「政策目標、 国産材の供給・利用量の増加(31百万m3 [令和元年度]→42百万m3 [令和12年度まで])」という具体的な目標です。
この数字がどのくらいの増加になるのか。単純に考えると、現在の国内産の供給は約3割ですから、あと8年で4割まで増やす計算になります。4割で安定需給になるのか正直疑問が残ります。が、カーボンニュートラルや循環型社会といった世の中の価値観に合わせて以前から林業の改革は謳われてきたのですが、今回はっきりと数字目標が掲示されました。実践計画として林業の復興を行う、という国の本気度は評価できると受け止めましょう。
なお、先の6月に行われた通常国会の衆議院答弁にて、ウッドショック問題を坂田議員が質問し、答弁されています。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a208084.htm
この答弁は先ほどの補正予算と林野庁白書が提示された後に行われていますので、裏付け答弁とも言えますが、ここで輸入材に対する優遇処置は行わないとはっきり述べられており、国産材の安定的な供給のための支援について、(白書で示された通り)事業を進めると回答されています。
国会ではっきりと答弁されたことで、民間企業の輸入材頼りから国策として木材を自給していく方針が広く告知されました。
業界の見解は?木材安定で住宅価格が戻る可能性は?
それでは、この施策によって今起きている資材の高騰・供給の不安定はいつ頃終わるのでしょうか。新築したいユーザーも我々ビルダーも一番気になるところです。
専門家や業界の分析を見てみましょう。
経済産業省HP、経済分析室「どうなったウッドショック;価格の高止まりが需要を抑制?」(2022年5月2日付)
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20220502hitokoto.html
5月の時点では、「輸入木材、国産木材共に集成材や合板といった特定の材料以外は価格の高騰は落ち着き安定してきている」とみています。つまり、昨年一気に値上がりした木材価格は当面このままで安定(下がる可能性は低いだろう)と予測しています。
とはいえ、特定の資材とされた集成材や合板は住宅建築では一番使用量が多い資材です。国産材の供給が需要に追いつくまで価格高騰は継続する可能性があり、まだまだ不安は残ります。
LIFULL HOME’S PRESS
「ウッドショック・木材価格が高騰中。ロシア木材の輸出禁止の影響は」(2022年5月27日付)
https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_01337/
こちらの記事では、ウクライナ情勢と円安といった最新の状況にも触れて分析しています。輸入材にはこういった輸出側の事情や世界情勢、輸送面のリスクとコストといった予測不可能な事態によって大きく影響を受けるため、今となってはむしろコロナ以前の安定が奇跡的だったとも感じます。
こういった不安定要素の少ない国産材需給への国の施策転換は、林業はもちろん、建設業界から大いに歓迎する流れになっています。しかし一度衰退してしまった日本の林業には一朝一夕ではクリアできない問題がたくさんあり、今対策を打っても輸入量を補うまでの国産供給はまだ数年先とみられています。結局、当面不安定な輸入木材で凌ぐことになり資材不足、現在の値上がりした状況は続くと予想されます。
結論としてこの1年2年で木材需給が安定し住宅価格がコロナ以前に戻る可能性は低いでしょう。
このウッドショックは日本の建設業界の転換期!でも安定の時期は不明確…
日本は国土の3分の2が豊かな森林なのに輸入材で家を建てている。森では豊かに育った樹木その多くが手付かず。長年不思議に思っていた矛盾。
コロナをきっかけに起きた世界情勢の変化によって、その50年続いてきた建築業界の矛盾した構造を正常に戻す転換期になっていることには間違いありません。国産の木材が我々末端の工務店まで安心して使える安定した資材になり、国産木材の家が今後の主流となることは遠い未来ではなさそうです。
しかし、残念なことに現時点でその時期は明確ではありません。
一般消費者から見れば、日本の木材で建てられた家に住むことは、当たり前で自然なことです。しかも自分が家を建てることが日本の山野の活性化にもつながる。この付加価値はとても有意義なことです。我々川下の末端事業者としても国の施策に大いに期待をしつつ、引き続き注視していきたいと思います。
引用参考文献、記事
令和3年度 森林・林業白書 全文より、(特集1) 第2節 国産材に係る輸入材からの転換と安定供給に向けた取組
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r3hakusyo/attach/pdf/zenbun-29.pdf(PDF:1,350KB)
西粟倉森の学校
森林・林業学習館
http://www.shinrin-ringyou.com/data/mokuzai_kyoukyu.php
http://www.shinrin-ringyou.com/ringyou/