7月1日、富士山が2年ぶりに山梨県側で山開きを迎え、本格的な夏山シーズンが到来しました。
7月10日には静岡県側でも山開きを迎え、夏山を楽しむハイカーたちで賑わいをみせています。
昨夏は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で登山道が閉鎖し、山小屋も休業したので、この日を待ちわびていた人も多いことでしょう。
私も暇を見つけては、東海地区の低山を中心に度々山行を楽しんでいます。
中でも気軽に行ける山として人気の高い、愛知県瀬戸市にある猿投山はよく登ります。
特に4月~5月にかけての新緑の季節は、森林浴と称し自然の中に身を投じるのですが、樹木に接することで五感が刺激されリラックスするものです。
そんな山々の登山道を歩いてふと感じることが日本は森林が豊かだなということです。
昨今、木材不足によるウッドショックが深刻化しているのにも関わらず、森林大国である日本。
この矛盾はどこからくるのでしょうか。
なぜ日本の木材は使われないの?日本の木材事情を紐解く
登山で人気のある先ほどの猿投山周辺の地質は、花崗岩となっており、瀬戸焼の主な原料として昔から良質な陶土や珪砂がよく採掘されます。その昔、陶器を焼く燃料用の薪材がたくさん伐採されてしまい、広大なハゲ山になってしまったという歴史があるとはいえ、復旧と保全により今ではスギやヒノキを中心に、その面影を感じないほどに広大な森林が広がります。
こういった景色を望むと「なぜ日本は多くの森林に恵まれているのに、建築などに使われる木材は不足しているのか?」と疑問に思わざるを得ないのです。
現に、日本の森林率(国土を森林が占める割合)は先進国では3位、森林の面積は国土の6割以上を占めているのにも関わらず、木材自給率は3割弱しかありません。
森林大国のこの日本で、一体何が起きているのでしょうか。
破壊されている世界の森林
日本の木材自給率が低い原因の一つが、過去に政府によって段階的に進められた木材輸入の自由化です。日本ではかつての高度成長期や人口増加に伴い、住宅の需要が急激に増え、木材の需要量がピークに達しました。
木材輸入の自由化が実施されたことにより、低価格で入手できる輸入材の需要が高まり、国産材の需要は急速に下がったのです。
その結果、日本は世界有数の森林大国であり、世界有数の木材輸入国という矛盾を抱えてしまいました。
世界に目を向けてみると、実は世界の森林は今この瞬間も減少を続けています。
その数は毎年約730万ヘクタール(環境省)といわれ、1時間に東京ドーム127個分の森林が消失しているのです。
特にブラジルやインドネシアの熱帯林を中心に、森林減少が進んでおり、その半分は砂漠化や荒れ地と化しています。
そのようにして伐採された木材は、日本などの先進国が大量に輸入しているのです。
自国の木材は使われず、海外の木材を大量に輸入する。それが森林破壊の一因になっているという何とも悲しい現実なのです。
根が深い林業の課題
木材自給率が低い原因の一つに、日本の林業の衰退が挙げられます。
木材輸入の自由化により輸入材に頼ってきた結果、日本の林業は儲からないというイメージが根付いてしまいました。森林が豊富で、木材の需要もあるのに、なぜ儲からないのでしょうか?
一つは、輸入材の需要が増えたせいで、国産の木材価格はピーク時に比べると、ヒノキが約4分の1、スギが約3分の1まで落ち込んでしまったことです。さらには、住宅着工件数の減少も相まって、昭和30年には約50万人もいた林業従事者は、平成27年には約5万人と年々減少しています。
もう一つの原因は戦後から引き継いだ林業のビジネス形態にあります。
日本における林業のビジネス形態は、戦後の木材需要の増加による政府の政策で、山林所有者が森林組合に山の管理を委託するという方式を取っています。
所有と経営が完全に分離されているというシステムにより、利益が出にくい仕組みになっており、赤字経営となっている山林所有者が多いのが現状です。それが林業は儲からないと言われる所以です。
また林業従事者が減ることは、産業としての問題だけでは留まりません。
林業従事者によって管理が行き届かない人工林は放置され、枝が乱雑に伸びてしまいます。
それが原因となり、日光が山の地表に届かず、低木などの根が十分に育たなくなるため土がやせていきます。
その結果、大雨や台風による土砂災害を引き起こす可能性が出てくるのです。
本来、森林は健全に保たれるよう管理することが大切であり、そういった意味でも林業の役割は大きかったのです。
ウッドショックとこれからの林業
そのような事情から、現在深刻化している「ウッドショック」も林業の衰退が大きく関わっていることは想像に容易いでしょう。
最近では、輸入材が手に入らない結果、国産材に需要が高まったことでこれを好機と捉え、林業復活のチャンスにしようとする機運が高まっている業者の方もいます。
しかし一方で、「急な需要拡大に追いつけない」「経済の先行きなどが見通せないから安易に投資できない」など、ウッドショックを一時的な現象であるとの冷静な見方をしている業界の方も多いようです。
また、プレカット加工・販売の会社も、加工済の輸入材を国産材で代用するため、仕事量は増えたが、自分の抱えるお客さんで手一杯とのこと。新たなニーズに対応するには、人工乾燥機などの設備投資や雇用が必要で、今すぐに十分な供給は確保できないとしています。
ウッドショックが、林業復活の兆しとなれば嬉しいですが、乗り越えるべき課題は大きく、一筋縄ではいきそうにもないというのが現実です。
ウィズコロナ、アフターコロナで変わる家づくり
前回の記事(ウッドショックとは?原因と見通しは?ウッドショックについて分かりやすく解説)でも述べたとおり、ウッドショックの影響はいつまで続くのか正直分かりません。
今後、住宅価格が段階的に上がっていくのは必至でしょう。
5~6月までは在庫分の木材で補えた建築も、7月以降工事が進められないという状況も起こってくると予想されます。
ウッドショックに不安を感じ、価格が上がる前に家を建てたいと焦る気持ちは理解できます。しかし率直な意見としては、ウッドショックの最中、急いで家を建てるメリットは正直ありません。
様子を見るのもひとつの手です。ただし明確な期限や家族計画があり、今すぐにでも家を考えている場合は、先の見えないウッドショックに惑わされず、可能な限り早めに業者に相談する事をおすすめします。待てば問題が解消されるという保証もありません。
また近年、自身のライフスタイルに合わせ、中古住宅やマンションをリノベーションする人が増えてきています。特に昨年から続く新型コロナウイルスの影響により、リノベーションへの関心が高まりをみせています。新築戸建てを望むより、リノベーションの方が、むしろミニマムでより良い暮らしを実現できるかもしれません。
先行き不安定な時代だからこそ、リノベーションへと目を向けてみるのはいかがでしょうか。
今後の暮らし方、費用の問題など、この不安定な状況下で住宅の需要をどう捉えていくのか。
私たちは今まで以上に慎重になり、先を読み、総合的に判断していく必要があります。
今回のウッドショックで、日本の林業のあり方、私たちの使命や役割、業界の未来を改めて考えるきっかけになったことを大きな利益と捉え、皆様のより良い暮らしの糧として、お力になれればと思います。